2023.12.27
令和4年(2022年)12月から16回にわたり開催された技能実習制度と特定技能制度に関する有識者会議での議論を踏まえた最終報告書が、令和5年(2023年)11月30日に関係閣僚会議の共同議長である法務大臣に提出されました。
今回は、技能実習制度の見直しに至った背景や最終報告書で発表された新しい制度「育成就労制度」と現行の技能実習制度の違い、海外人材を受入れる法人にとって考えられる新制度のメリットや課題を解説します。
現行の技能実習制度の目的は、発展途上国への人材育成を通じた国際貢献としています。しかし、実際には労働環境が厳しい業種における人材不足を補填するための労働力として利用されているケースが少なくありません。
また、ニュースで報道されているように、技能実習生を過重労働や賃金未払いをはじめとする違法な労働条件で働かせたり、職場で暴力やハラスメント事案が行われたりとさまざまなトラブルが発生していることも実態として挙げられます。
制度の目的と実態が大きくかけ離れていること、技能実習生の人権が軽視されていることなどが問題視され、技能実習制度は、人材確保と人材育成を目的とし、かつ労働者としての権利性を高めた新たな制度として見直すべきであるという声が上がったのです。
最終報告書では、現在の技能実習制度と特定技能制度において、特に人手不足が深刻な地方や中小零細企業で、海外人材が日本の経済社会を支える担い手となっていると述べられています。また、国際的な人材獲得競争が激しくなっている昨今、日本でも海外人材の確保について真剣に考える時期にきているとも考えられています。
一方で、現行の技能実習制度には、人材育成の観点から転籍が難しいことや監理・支援が不十分なことがあり、これが人権侵害や法違反の背景や原因となっていると見られています。
この状況を踏まえ、最終報告書では、国際的にも理解され、海外人材に選ばれる国になるために、以下の3つの視点(ビジョン)が掲げられました。
技能実習制度と特定技能制度の見直しは、以下の4つの方向性に基づいて行うと最終報告書で示されています。
技能実習制度と特定技能制度の見直しにあたり、最終報告書では、留意事項として以下の2点が挙げられています。
①現行制度の利用者等への配慮
見直しにより、現行の技能実習制度及び特定技能制度の利用者に無用な混乱や問題が生じないよう、また、不当な不利益や悪影響を被る者が生じないよう、きめ細かな配慮をすること
②地方や中小零細企業への配慮
とりわけ人手不足が深刻な地方や中小零細企業において人材確保が図られるように配慮すること
出典:出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」
令和5年(2023年)11月30日に発表された最終報告書には、技能実習制度は廃止し、「育成就労制度」という新たな制度を設けることが提言されています。ここでは「育成就労」と「技能実習」それぞれの制度の違いを解説していきます。
相違点 | 育成就労制度 | 技能実習制度 |
---|---|---|
①制度の目的 | 人材確保と人材育成 | 国際貢献・技術の移転 |
②受入れ可能な職種 | 特定技能と同一分野(12分野) | 88職種161作業 |
③在留期間 | 3年の在留期間が基本 | 1号が1年・2号が2年・3号が2年 通算5年間 |
④在留資格取得要件 | 日本語能力A1(日本語能力試験N5など合格) | 6ヶ月以上又は360時間以上の業務に関する講習 |
⑤移行要件 | ●受入れ後1年以内:技能検定基礎級合格 ●特定技能1号移行:日本語能力A2(日本語能力試験N4など合格)+技能検定3級または特定技能1号評価試験合格 ●特定技能2号移行:日本語能力B1(日本語能力試験N3など合格)+技能検定1級または特定技能2号評価試験合格 |
●技能実習2号への移行:技能検定基礎級の合格 ●技能実習3号への移行:技能検定3級の合格 |
⑥転職・転籍 | 同一企業で1年以上の就労後、転職可能 | 原則不可 |
⑦受入れ人数枠 | 原則技能実習制度に準拠 | 受入れ企業の規模に伴って上限あり |
⑧監理・支援・保護のあり方 | 外国人技能実習機構を改組、監理団体を適正化し、外国人の支援・保護を強化した支援体制を整備 | 国際人材協力機構と外国人技能実習機構の管轄で、監理団体が監理 |
前述の通り、技能実習制度は、発展途上国へ人材育成を通じて国際貢献をすることを目的としています。
一方の育成就労の目的は、「人材確保」と「人材育成」とされており、人材育成に加えて、就労を目的とすることが明確に提言されています。また、人材育成については、技能実習のような「国際貢献・技術の移転」のためだけではなく、人材確保が目的となっている特定技能1号に移行できる人材を育成することも目的に含まれています。
受入れ可能な職種は、新制度と現行の技能実習制度との大きな違いとして挙げられます。
新設される育成就労制度では、キャリアパスを明確化し、特定技能制度への円滑な移行を可能にすることが考えられているため、特定技能と同じ分野に限ることと提言されています。
特定技能制度は以下の12分野が対象となっています。
①介護
②ビルクリーニング
③素形材・産業機械製造・電気・電子情報関連産業
④建設
⑤造船・舶用工業
⑥自動車整備
⑦航空
⑧宿泊
⑨農業
⑩漁業
⑪飲食料品製造業
⑫外食業
在留期間については、技能実習制度が1号で1年、2号で2年、3号で2年、最長5年間です。それぞれ移行する際には各業種の技能検定試験に合格する必要があります。
新制度である育成就労制度の在留期間は、基本3年です。在留3年の間は、特定技能1号への移行を目指すための育成も目的としているため、日本語能力や各分野の技能を一定のレベルまで身につけることが求められます。
育成就労制度で海外人材を受入れた企業のうち、優良な受入れ企業に対してインセンティブを与えることが検討されています。例えば、優良と認められる要件の1つとして、日本語試験合格率など、人材に対する教育支援を積極的に行っていることを確認する仕組みが考えられています。
なお、育成就労制度で就労し、特定技能1号への移行に必要な試験に不合格となった場合、同じ受入れ企業での就労を継続することを条件に、再度受験に必要な範囲で最長1の在留継続を認めるとしています。
技能実習制度では、上記の表に記載されている一定期間の業務講習の他にも、母国で同種の業務に従事した経験があることや技能実習を行うために必要な最低限の訓練を受けているなどの条件が設けられていますが、日本語能力については、ほとんど重要視されていません。
しかし育成就労制度では、受入れる海外人材には日本語能力が求められます。就労開始前までに文化庁が定める日本語能力(日本語教育の参照枠)A1相当以上の試験(日本語能力試験N5など)に合格すること、またはそれ相当の日本語講習を受講することが要件として提言されています。
日本語教育の参照枠とは、ヨーロッパ全体で外国語の学習者の習得状況を示す際に用いられるCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)を参考に文化庁文化審議会国語分科会で取りまとめられた日本語の熟達度を示すガイドラインで、A1~C2(C2が最高)の6つのレベルが用意されています。
育成就労制度では、日本語能力A1相当以上の試験に合格、または相当の日本語講習を受講したうえで海外人材が受入れられます。受入れ後1年以内に海外人材の技能修得状況などを評価するため、受入れ企業は、技能検定試験基礎級と日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5など)を受験させることが政府に提出された最終報告書に記載されています。日本語の試験については、受入れ前に日本語能力A1相当以上の試験に合格していれば、受験させる必要はありません。
また、育成就労制度は3年間の就労・育成を経て、特定技能1号への移行を目指すことも目的の1つです。特定技能1号への移行には、技能検定試験3級以上または特定技能1号評価試験の合格に加え、日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4など)の合格を要件としています。
ただし、日本語能力試験の要件については、当分の間は、当該試験合格の代わりに、認定日本語教育機関における相当の日本語講習を受講した場合も、その要件を満たすものとしています。
特定技能2号への移行については、技能検定試験1級以上または特定技能2号評価試験の合格に加え、日本語能力B1相当以上の試験(日本語能力試験N3など)の合格が要件となっています。
転職・転籍は技能実習では、原則できません。新たな制度である育成就労においては、人材育成及び人権保護の観点から、以下の要件をいずれも満たす場合には、海外人材本人の意向による転籍を同じ業務区分内に限って認められるとしています。
新たな育成就労制度では、現行の技能実習制度における受入れ企業の規模によって受入れ人数枠を設けるとともに、現行の特定技能制度における分野別協議会への加入などの要件を設けたうえで、その他より適切性を確保するために必要な要件を新たに設けることを検討するとしています。
ちなみに、特定技能制度は、介護と建設の分野以外は受入れ人数の制限はありません。
新制度の育成就労では外国人技能実習機構が再編成されて新たな機構になることが提言されています。さらに、監理団体には、国際的なマッチング機能や受入れ機関、海外人材に対する支援などの機能を適切に果たすことができるよう、新たな許可要件に則り厳格に審査が行われ、機能が十分に果たせない監理団体には許可が下りず、厳格な監理のもとに厳格な監理のもとに制度の運営が行われるとされています。
新制度の育成就労は、令和5年(2023年)11月30日に最終報告書でさまざまな提言が発表されました。令和5年(2023年)12月現在では未だ検討段階ですが、最終報告書の内容を基に、海外人材を受入れる法人にとって考えられる育成就労制度のメリットや課題を見てみましょう。
技能実習制度と特定技能の業務内容は異なるため、在留資格を移行する際に整合性の調整が必要なケースが生じていました。対照的に、育成就労では特定技能の12分野に適した職種に従事する予定です。そのため在留資格の移行がスムーズになると考えられます。
従って、同一の職種での雇用が可能となり、企業は長期的にわたり海外人材を雇用することが実現でき、海外人材に対して長期的なキャリアパスの提示が可能になります。
技能実習制度では、日本語能力の水準が設定されておらず、職場でのコミュニケーションに課題が生じることがありました。一方、育成就労制度では、海外人材が就労前までに日本語能力A1相当以上試験(日本語能力試験N5など)の合格またはそれ相当の日本語講習の受講が必要となり、就労前に合格していない場合は、受入れ後1年経過時までに日本語能力A1相当以上の試験を受験させることになっています。
新制度により、海外人材の日本語能力向上が促進され、企業はより円滑なコミュニケーションとスムーズな業務遂行が期待できます。特に対人サービスが主な分野では、海外人材の日本語能力が上がることにより、受入れる企業にとってはメリットと言えるでしょう。
新制度の課題として、海外人材には転籍・転職が認められることから、以下の2つの課題が挙げられます。
技能実習制度では原則として転籍や転職が認められていません。受け入れ企業は技能実習生を受け入れる際に初期費用として相応の金額を負担し、その後、実習生は同一企業で最大5年間にわたり実習を行います。
新たな育成就労制度では、海外人材の転籍や転職が認められる一方で、初期費用を負担した企業が早期に転籍された場合、負担した費用が無駄になるという課題が浮かび上がります。
最終報告書では、転籍に関して一定の条件を設けるべきであるとの提言がなされています。同時に、転籍前の企業が負担した受入れ初期費用に対する考慮や、不平等が生じないための具体的な措置の検討が行われる予定ですが、まだ詳細は確定していません。
新制度では、転籍が可能になるため、海外人材の労働者としての権利が確保されることになります。一方で、最低賃金の差などから、地方よりも都市部での高い賃金やより優遇された待遇を求めて転籍する傾向が高まることが予想されます。
これにより、これまで地方で活躍していた実習生が転籍し都市部に流出する可能性が高まり、地方での人材不足が顕著化する恐れがあります。最終報告書では、技能実習制度における地域協議会と同様の協議会を組織することが提言されていて、共生社会の実現や地域産業政策の観点から、自治体も積極的に協議会に参画し、受入れ環境や相談窓口、生活環境等を整備するための取組を推進するなどの役割が提言されています。受入れる企業も情報収集を積極的に行い、各自治体の補助金や助成金を活用しながら、海外人材への支援体制や受入れ環境の整備が求められるでしょう。
技能実習制度に代わる新たな育成就労制度について、令和5年(2023年)11月30日に発表された最終報告書を基に、解説いたしました。
最終報告書では、検討事項も含まれています。今後は、更に具体的な内容が報告されるでしょう。当社においても新制度の情報を随時更新して、お届けしていきます。
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