2025.03.24
日本の介護現場では、人手不足を背景に外国人材の活用がますます注目されています。しかし地方・辺境の介護施設のなかには、「都市部に比べて不便だから外国人材に選んでもらえないのでは?」という不安を抱える施設も少なくありません。
本コラムでは、実際に外国人材が「なぜ日本を選ぶのか」、そして「地方や辺境で働くことの魅力は何か」について、具体的なデータや事例を交えながら解説します。さらに、施設が外国人材を受け入れるにあたり重要となる日本人職員側のマインドセットや研修についても触れていきます。
「日本の介護現場は欧米に比べて給与水準が低いのではないか?」という声がしばしば聞かれます。確かにヨーロッパやアメリカの一部の国では、高い給与水準を提示する介護施設も存在します。しかし、外国人材が働く国を選ぶ際には給与だけではなく、長期的に在留できるか、治安の良さ、人間関係など、さまざまな要因が考慮されます。
欧米に比べると、日本は家賃や食費が比較的抑えられ、日常生活コストがトータルで安定しやすいという利点があります。
日本は世界的に見ても治安が良く、医療や社会保険制度が整っています。外国人にとっては、安心して長く生活できる環境という点が魅力です。
外国人材がアメリカやヨーロッパではなく日本を選ぶ理由として挙げられるのが、ビザや在留資格の要件が比較的明確で、長期的・永続的に働きやすいことです。
「特定技能1号」は在留期間が通算で5年まで認められ、その後、一定の条件を満たすことで「特定技能2号」に移行すれば在留期間更新の上限がなくなります。
介護分野においては、国家資格である「介護福祉士」を取得すれば、在留資格「介護」に移行でき、日本での永続的な就労可能になります。日本語能力や実務経験を積みやすい環境が整っており、永続的に就労するための要件もアメリカ・ヨーロッパに比べて明確です。
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地方や辺境の介護施設は、都市部に比べて不便な点がある反面、以下のような「地方ならではの魅力」があります。
地方は都市部に比べて、家賃を抑えることが可能です。例えば、令和5年(2023年)住宅・土地統計調査によると、東京都の家賃平均額は11万円程になっています。大阪府や兵庫県では約7万円、その他の地域の家賃平均額は5~6万円程度です。
食費も地方は、都市部に比べて概ね抑えられる傾向にあります。
また、自治体によっては外国人労働者向けの住宅支援制度や、地域に密着した生活支援サービスを提供しているところもあり、外国人介護職員の定着を後押しする動きが進んでいます。
出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」・「2024年家計調査 家計収支編」
地域コミュニティが密接で、他者とのつながりを大切にする文化が根強いところが多く、外国人材が安心感を得やすいという声があります。
特に自国の農村地域で育った方にとっては、日本の地方の景観や農村文化に親しみを感じる場合もあるようです。
外国人介護人材はアジア圏から来日する人が多く見受けられます。ここでは、国籍ごとに日本での勤務や地方での働き方、介護に対する考え方や傾向を紹介します。
もちろん一人一人考え方は違いますが、あくまでも一つの傾向として捉えていただければと思います。
日本は給与水準が高く、安定した雇用環境や技術習得が期待できることから人気があります。一方、言語の難しさや生活習慣の違いへの適応に苦労することもあり、ベトナム人コミュニティの支援で克服可能と感じている人が多い傾向にあります。
ベトナム人はコミュニティを重視する文化があり、地域密着型の地方生活は親和性が高いです。人情味のある地方社会との交流は居心地が良く、生活費が安く自然環境が豊かな地方を好む人も少なくありません。
ベトナム人は家族や高齢者への敬意が文化的に根付いているため、介護分野との相性は良いです。介護を通じて相手への配慮や共感力を活かせる仕事として捉え、キャリア構築のチャンスと考える傾向が強まっています。
フィリピン人は海外での就労経験を重視し、日本は安全で給与や福祉制度が整った国として魅力的であると思っている傾向があります。ただし、日本語習得の難易度の高さは課題であり、言語・文化へのサポートが鍵となるでしょう。
フィリピン人は社交的でコミュニケーション能力が高く、地方コミュニティとの相性が良いです。温かく迎え入れてくれる地方社会で人間関係を築きやすく、自然豊かな地域を好む人も多いです。
フィリピン人は介護や看護分野での海外就労経験が豊富で、高齢者ケアの適性が非常に高いです。優しく親切な対応が得意で、介護を長期的なキャリアとして前向きに捉える傾向があります。
日本は安定した収入、技術力習得、規律ある社会環境を評価されています。ただし、言語習得が障壁となることがあり、日本語教育環境や職場環境の支援整備が重要視されます。
インドネシア人は地方の穏やかな生活環境や人間関係に魅力を感じやすく、地方で働く親和性は高いです。特に信仰している宗教がイスラム教の場合は地域の生活環境やハラル対応などが親和性を高めるポイントになでしょう。
インドネシア人は文化的に高齢者を敬う習慣があり、介護分野において献身的で丁寧な仕事が評価されています。福祉的な視点を持ち、人助けや社会貢献を志望動機として重視する人が多いです。
日本は高度な技術、安定した収入、安全な社会環境が評価され、特に若年層からの関心が高まっています。しかし、文化的差異や言語の難易度がハードルとなり、サポート体制の充実が重要です。
インド人にとって地方は文化や習慣の異なる地域でもコミュニティに溶け込みやすく、地域社会との相互理解を促進する環境となるでしょう。ただし、インド人コミュニティが少ない地域では生活支援体制が求められます。
インドでは介護分野はまだ発展途上ですが、近年日本の介護職に興味を持つ若者が増加しています。家族的な価値観や年長者への敬意の高さから、介護職は共感を持てる仕事として認知されつつあります。
ミャンマーでは経済状況から安定した給与や安全な労働環境を求めて日本就労を望む若者が多いです。日本語や文化適応に課題はありますが、まじめな働きぶりと真摯な態度が評価されています。
ミャンマー人は共同体意識が強く、地域社会の中で人間関係を築くことが得意なため、地方勤務は比較的親和性が高いです。穏やかな地方生活を希望する人も多く、コミュニティ形成が成功の鍵になります。
仏教文化の影響で高齢者を敬う価値観が強く、介護職はやりがいや社会的意義を感じやすい仕事とされています。特に高齢者との精神的交流を重視し、介護職への適性が評価されやすい傾向があります。
ネパールでは雇用機会が限られるため、日本は高収入と安定した就労環境が得られる魅力的な国と認識されています。日本語や文化習得のハードルは高いですが、熱心に克服しようとする姿勢が目立っています。
ネパール人は地方の静かで人間関係が密な生活環境を好む傾向があり、地方就労の親和性が高い傾向にあります。生活費の安さや自然環境の豊かさも、地方で働く魅力として受け入れられやすいでしょう。
ネパール人は年長者への敬意やコミュニティの相互扶助精神が強く、介護分野との相性が良いです。介護職を通じて地域社会に貢献できる仕事として捉え、積極的に関心を示す人材が少なくありません。
総じて、アジア圏から来る介護人材は「都市部・地方どちらでも良い」と回答する人が多いとされ、特にベトナムやフィリピンでは半数以上が地方勤務に前向き、インドネシアや中国でも3~4割程度が前向きとする調査結果(※)もあります。
※国際研修協力機構(JITCO)や自治体・関連企業が独自に行ったアンケートなどを総合的に参照。
ヨーロッパには確かに高い水準の給与を提示する介護施設もありますが、以下のような要因から日本を選ぶ外国人材が一定数存在します。
「日本語や日本文化に興味があり、日本で長く生活したい」と考える人が一定数います。マンガやアニメ、和食などの影響も大きいです。
欧米諸国は就労ビザの取得や永住権取得にハードルが高い場合も多いです。
日本の介護分野では、特定技能から介護福祉士資格取得による在留資格変更など、キャリアパスが比較的はっきりしています。
日本の治安や公共サービスの充実度は世界的にも評価が高く、特に単身での渡航でも安心感があるとされています。
外国人材を受け入れる施設が成功するかどうかは、「外国人本人の努力」だけでなく日本人職員の理解と対応に大きく左右されます。例えば、以下のような研修が有効です。
日本人職員に外国人材が行う食事制限や祈りの習慣などを理解させ、配慮できる環境を整えます。
日本人職員に対して、ゆっくり話す、簡潔な言い回しで伝えることなどを学ぶ「やさしい日本語研修」を実施したり、ジェスチャーやイラストを活用したりして、外国人材の語学力の差をカバーする方法を習得させます。
Zenkenでは、日本人スタッフ向けの「異文化理解研修」や「やさしい日本語研修」をご用意しています。施設全体のコミュニケーションでお悩みの方はお気軽にお問い合わせください。
研修だけでなく、職場全体で「多様な人材を受け入れる」意識を共有することが大切です。違いを排除するのではなく、お互いの文化的背景を活かして新しいケアの方法やコミュニケーションを生み出す姿勢が求められます。
食文化を共有するイベントやレクリエーションを開催し、職員同士の信頼関係を築きます。
外国人材が業務上や生活面で悩んだとき、日本人スタッフや先輩外国人スタッフに気軽に相談できる体制を整えます。
地方や辺境であっても、外国人材から選ばれる施設になる可能性は十分にあります。実際、地域に根ざした人間味あふれるコミュニティや生活費の安さなどは、外国人材にとって大きな魅力です。また、日本の介護分野におけるビザ制度やキャリアパスは比較的明確であり、欧米に比べて永続的に働きやすい面も評価されています。
一方で、外国人材の受け入れを成功させるには、施設側が文化的・言語的な違いを理解し、受け入れる土壌を整えることが必須です。日本人スタッフ自身が異文化理解を深め、コミュニケーションの取り方を工夫することで、外国人材にとっても「働きやすい」「長く勤めたい」と思える職場環境をつくることができます。
施設で提供できる強みをアピールしつつ、外国人材を迎え入れる体制づくりを進めていきましょう。
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