2026.02.06
少子高齢化が進む日本において、介護現場を支える人材の確保は喫緊の課題です。特定技能制度の活用が進む一方で、従来の主要な送り出し国であった東南アジア諸国の経済成長に伴い、「人材確保の多角化」を模索する事業所が増えています。
そこで新たな選択肢として急浮上しているのが、14億人を超える人口を持つインドです。なぜ今、インドなのか。そして、彼らは日本の介護現場の救世主となり得るのか。動き出したインド人介護人材の実態と可能性を紐解きます。
日本の介護現場における外国人材の受け入れは、制度開始から数年を経て大きな転換点を迎えています。特に「特定技能」制度における介護分野の伸びは顕著で、日本の介護施設における戦力としての定着が進んでいますが、その内訳には変化の兆しが見え始めています。
これまでの外国人介護人材の供給は、ベトナム、インドネシア、フィリピンの3カ国が中心でした。中でもベトナムは最大の送り出し国として日本を支えてきましたが、近年はその勢いに陰りが見え始めています。
現地の経済発展に伴う賃金上昇や、円安の影響による日本で働く経済的メリットの縮小、さらには台湾や韓国など他国との獲得競争が激化していることが要因です。こうした背景から、介護人材確保の戦略は「特定国への依存」から「多国籍化」へとシフトせざるを得ない状況にあります。
そうした中で、ベトナム・インドネシア・フィリピンに続く「第4の送り出し国」として急速に注目を集めているのがインドです。
厚生労働省の令和6年度 老人保健健康増進等事業における調査報告書でも、各国の状況について以下のような分析がなされています。
すでに多くの人材を送り出しているベトナムやフィリピンが「成熟期」とされる一方、インドはスリランカ等と共に「立ち上がり期」から「拡大期」へ移行しつつある国として明確に位置づけられました。
実際、数字の上でも変化は起きています。同調査によると、特定技能「介護」分野におけるインド国籍の人数は2024年12月末時点で248人となり、前年比で+50.8%という伸び率を見せています。絶対数はまだ少ないものの、主要国が伸び悩む中で倍増に近いペースで成長している点は、今後の採用戦略を考える上で見逃せないデータと言えるでしょう。
出典:
厚生労働省 令和6年度 老人保健健康増進等事業「海外における外国人介護人材の獲得力強化に関する調査研究事業」報告書(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
なぜ今、インドなのか。その答えは、同国が抱える「圧倒的な若年人口」と「社会構造の変化」にあります。彼らが日本を目指す背景には、単なる憧れではなく、経済的な必然性とキャリアへの渇望があります。
インドの総人口は14億人を超え、2023年には中国を抜いて世界最多となりました。特筆すべきは、その人口構成の若さです。日本の少子高齢化とは対照的に、インドの15〜24歳の若年人口は約2億5,000万人に達します。これは日本の総人口の約2倍にあたる規模であり、豊富な労働力の源泉となっています。
しかし、国内の雇用環境は厳しく、2024年の若年層(15~24歳)の失業率は16%と高止まりしています。この「若さはあるが仕事が足りない」という需給のギャップが、多くの若者を海外就労へと駆り立てる強力なドライバーとなっています。
かつてのような「低賃金労働力」というイメージも、現在のインドには当てはまりません。2023年の平均月給を見ると、インドは製造業・作業員で337米ドルとなっており、ベトナムやフィリピンより高い水準に位置しています。これは、一定の教育を受けた層が、さらなる所得向上を目指して海外への移住を検討し始める「移民転換点」(海外出稼ぎが必要なくなる経済水準)の経済帯域に入ったことを意味します。
教育水準の向上も顕著です。高等教育(大学・短大等)の就学率は28.4%(2021-22年度)と上昇傾向にあり、2035年には50%を目標としています。特に、インド政府は2023年に157の看護大学を新設する計画を決定するなど、国策として医療人材の輩出を強化しています。看護・医療分野の教育を受ける層が増加している点は、日本の介護現場にとってインド人介護人材の採用を検討するうえで、大きなメリットです。
出典:
国連人口基金 (UNFPA) 「World Population Dashboard – India” / 国連 “World Population Prospects 2022」
日本貿易振興機構 (JETRO) 「2023年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」
インド教育省 (Ministry of Education) 「All India Survey on Higher Education (AISHE) 2021-2022」
インド政府 教育省(Ministry of Education)「国家教育政策 2020(National Education Policy 2020: NEP 2020)」
インド内閣 / 経済問題内閣委員会(Cabinet / Cabinet Committee on Economic Affairs)プレスリリース
では、実際にどのくらいのインド人材が日本の介護現場で活躍しているのでしょうか。最新の在留データと、彼らが日本へ来るまでのプロセスから見える「人材としての特徴」について解説します。
2024年末時点での統計を見ると、介護分野におけるインド国籍の在留者数はまだ「立ち上がり期」の段階ですが、特定技能においては確実な増加傾向が見られます。
絶対数はまだ数百人規模ですが、特定技能人材が前年から約1.5倍に増えている点は注目に値します。これは、インド国内での日本語教育や技能試験の整備が進み、日本を目指す若者が着実に増えていることの表れと言えるでしょう。
インド人介護人材の大きな特徴として、母国で「看護教育」を受けている人材が多い点が挙げられます。
インドは看護師の輩出が非常に盛んな国であり、日本へ「特定技能(介護)」として来日する人材の中には、母国の看護師資格や、それに準ずる教育課程を修了しているケースが少なくありません。そのため、単に日本語を学んで来日するだけでなく、身体の仕組みやボディメカニクス、感染症対策といった「医療・介護の基礎知識」をすでに持った状態で入国してくる人材も多いです。
彼らは「介護」を単なる労働としてではなく、自身の看護・医療知識を活かせる「専門職(キャリア)」として捉えているため、プロフェッショナルとしての意識や成長意欲が非常に高い傾向にあります。採用する事業者にとっては、医学的な素養を持つ「即戦力候補」として期待できる点は、インド人材ならではの大きな魅力と言えるでしょう。
出典:
Zenkenでは、インド政府系機関「NSDC International」との協業により、看護大学・短大の卒業生を中心にZenken独自の面接を行い、日本語能力や介護の知識・技術はもちろん、「日本で長く働きたい」という強い意欲を持つ人材のみを厳選してご紹介しています。
Zenkenが自信を持ってお届けするインド人介護人材の詳細は、以下をご覧のうえ、お気軽にお問い合わせください。
インド人介護人材のポテンシャルは高いものの、受入れの歴史はまだ浅く、現時点ではあくまで「立ち上がり期」にあります。そのため、先行するベトナムやフィリピンのような確立された送出しルートや教育連携、就労後の支援フローが完全には整備されていない点が、制度上の課題として挙げられます。
しかし、現場レベルでより重要になるのは「定着」の課題です。長く働いてもらうためには、日本語能力の向上と共に、在留資格「介護」を取得するために介護福祉士国家試験合格に向けた教育支援が必要です。また、文化的な摩擦の解消も避けて通れません。
特定技能介護の在留期間は通算5年が上限です。優秀なインド人スタッフに5年を超えて長く活躍してもらうためには、介護福祉士国家試験に合格し、在留資格「介護」へ切り替えることが必須条件となります。そのため、入職初期から「OJT」と並行して、「試験合格に向けた学習カリキュラム」を組むことが、定着への最短ルートです。
Zenkenでは、海外人材を対象とした介護福祉士国家試験対策講座をご用意しています。受講者一人一人にサポーターがつく「伴走型学習」でレッスンが進められ、いつでも、どこでも、隙間時間で学べるオンデマンドの動画学習と週一回のライブレッスンで講師が重要項目を分かりやすく解説していきます。
詳しくは以下をご覧いただき、ご興味がある方は、お気軽にお問い合わせください。
インド人材は英語圏での学習経験がある場合が多く、論理的思考力や学習意欲が高い傾向にあります。しかし、非漢字圏出身者にとって「漢字」や「介護独自の専門用語」は非常に高いハードルです。
このように、個人の自助努力に任せるのではなく、「資格取得は法人の投資である」と捉え、組織的にバックアップする体制が求められます。
教育支援と同時に、日々のコミュニケーションにおける摩擦を減らすことも重要です。インドは多言語・多文化社会であり、異文化への適応力は高いと言われますが、日本の介護現場特有の「阿吽の呼吸」や「ハイコンテクストなコミュニケーション」は、初期段階でストレスの要因となります。
この課題に対して、受入れ施設側ができる最も有効な対策は日本人職員を対象とした「やさしい日本語」の研修です。 外国人スタッフに日本語の上達を求めるだけでなく、日本人職員側も「あやふやな表現を使わない」「短く明確に伝える」といった歩み寄りのスキルを身につけること。この双方向の努力が、心理的な安全性を生み、結果として人材の定着へとつながっていきます。
また、インドの文化・宗教観(食事や習慣など)を知るための「異文化理解研修」を実施して、理解を深めることも大切です。
今後のインド人材活用においては、単なる労働力の確保にとどまらず、こうした「多文化支援体制」を受入れ側がいかに整備できるかが成功のカギとなるでしょう。
Zenkenでは、日本人職員向けの「異文化理解研修」や「やさしい日本語研修」をご用意しています。研修の実施をご検討されている介護施設の方はお電話か以下のお問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
アジア全体の介護人材供給マップが塗り替わろうとしている今、インドは今後「量」だけでなく「質」の面でも存在感を高めていく国となるでしょう。高い学習意欲を持ち、看護のバックグラウンドを持つ人が多い彼らは、日本の介護現場における特定技能の新たな担い手として、大きな可能性を秘めています。
今後の私たちのテーマは、単に「インドから人を呼ぶこと」ではありません。呼び寄せた彼らがいかに能力を発揮し、長く日本で活躍できるかという「育成・定着支援」にこそ、真価が問われます。
本コラムでは、新たな選択肢としてインド人介護人材に焦点を当てましたが、採用から定着に至るプロセスの本質は、国籍によって大きく変わるものではありません。
「外国人だから」と特別視しすぎるのではなく、一人の働く仲間として背景を理解し、歩み寄る。その姿勢こそが、国籍を問わず選ばれる施設となり、最強のケアチームを作るための一番の近道となるはずです。
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